02.脳活ラボの経済効果分析案のサマリー
何を調べるの?
脳活ラボ(認知症予防アプリ)を使っている人と使っていない人を比べて、介護や医療にかかるお金がどれくらい減るかを調べます。
なぜ調べる必要があるの?
- アプリにお金をかける価値があるかを知りたい
- 議会や住民に「効果があります」と説明したい
- 他の自治体にも紹介できる根拠が欲しい
調べ方の基本的な考え方
1. 2つのグループを比較
アプリを使うグループ(参加群)
- 脳活ラボを使っている人:5,000人
アプリを使わないグループ(対照群)
- 使っていない人の中から、年齢や健康状態が似ている人:5,000人
2. 何年間追いかけるか
3年間追跡して、どんな違いが出るかを見ます。
3. 何を測るか
介護関係:
- 要介護認定を受ける人の割合
- 要介護度がどれくらい進行するか
- 特別養護老人ホームに入る人の割合
医療関係:
- 病院にかかる回数や費用
- 認知症の薬代
- 生活習慣病の治療費 ※削減率は仮定値(認知症関連:8%、生活習慣病関連:12%)
社会的な効果:
- 家族の介護負担
- 介護のために仕事を辞める人 ※対象率は仮定値(5%の世帯が影響を受けると想定)
具体的な分析の流れ
ステップ1:データを集める
足立区の場合
- 65-80歳の住民:約11.2万人
- その中で要介護認定を受けていない人:約9.5万人
- 脳活ラボ参加予定:5,000人
データ出典: 足立区統計書 https://www.city.adachi.tokyo.jp/kikaku/ku/aramashi/tokei-nenpou.html
ステップ2:公平な比較をするために調整
問題:脳活ラボを使う人は、もともと健康意識が高い可能性がある
解決方法:
- 年齢、性別、過去の病気、健康診断の結果などが似ている人同士を比較
- 統計的な手法を使って、公平な比較ができるようにする
ステップ3:効果を計算
例:要介護認定率の変化
- 使わない人:100人中15人が新しく要介護認定を受ける(全国平均)
- 使う人:100人中12人が新しく要介護認定を受ける(想定効果)
- 差:3人分の効果
参考データ: 厚生労働省 介護保険事業状況報告 https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/index.html
ステップ4:お金に換算
1人当たりの年間費用(足立区実績ベース)
- 要介護1の人:約189万円/年
- 要介護2の人:約278万円/年
- 要介護3の人:約345万円/年
- 施設入所:約330万円/年
- 認知症関連医療費:約52万円/年
- 65歳以上1人当たり医療費:約89万円/年
削減額の計算
- 要介護認定を避けられた人×費用 = 削減額
データの出典
- 介護給付費:厚生労働省 介護給付費等実態統計 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/index.html
- 医療費:厚生労働省 後期高齢者医療事業状況報告 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/iryouhoken/database/zenpan/kouki_houkoku.html
- 足立区データ:足立区の介護保険 https://www.city.adachi.tokyo.jp/kaigo/fukushi-kenko/kaigo/index.html
- 施設費用:WAM NET 介護事業者情報 https://www.wam.go.jp/kaigo/
実際の試算例(足立区)
マッチング成功者3,750人の場合
(参加登録者5,000人のうち、属性の似た対照群とマッチングできる想定人数)
年間削減額:
- 介護費:5億2,508.5万円
- 医療費:2億8,200万円(仮定値)
- 社会的費用:2億2,500万円(仮定値)
- 合計:10億3,208.5万円
※介護費は重複計算を調整済み(要介護認定回避者を他計算から除外)
分かりやすく言うと
1人参加すると年間約27.5万円の削減効果 (10億3,208.5万円 ÷ 3,750人 = 27.5万円/人)
なぜこの分析が信頼できるの?
1. 統計的な検証をする
「たまたまそうなった」のではなく、「本当に効果がある」ことを統計学の方法で証明します。
具体的には:
- 95%の確率で効果があることを確認
- 「偶然」の可能性を5%以下に抑える
統計手法の参考: 日本疫学会ガイドライン https://jeaweb.jp/activities/guidelines.html
2. 複数の方法で確認(頑健性検証)
なぜ必要?:1つの方法だけだと、たまたまその方法でうまくいっただけかもしれません。
具体的な確認方法:
①異なる統計手法での検証
- ロジスティック回帰分析※1:要介護認定を受ける確率を分析
- 生存時間解析※2:施設入所までの期間を分析
- 傾向スコアマッチング※3:似た特性の人同士を比較
- 機械学習※4:AIを使った予測分析
②対象者を変えた分析
- 年齢層別(65-70歳、70-75歳、75-80歳)
- 性別(男性、女性)
- 健康状態別(持病あり、なし)
- 参加頻度別(よく使う人、たまに使う人)
③期間を変えた分析
- 1年後の効果
- 3年後の効果
- 5年後の効果
判定基準: どの方法で分析しても同じような結果が出れば、「確実に効果がある」と言えます。
3. 最悪のケースも考える(感度分析)
なぜ必要?:予想より効果が小さかった場合でも、事業を続ける価値があるかを確認します。
具体的な検証:
①効果が半分だった場合
- 予想削減額:10億3,208.5万円/年
- 半分の場合:5億1,604万円/年
- 判定:それでも十分な効果
②効果が30%だった場合
- 30%の場合:3億962万円/年
- 判定:効果はあるが、効果量を再検討
③統計的な不確実性の考慮
- 95%信頼区間※5:5億8,925万円~14億7,492万円
- 保守的推定:下限の5億8,925万円でも効果あり
- 悲観的シナリオ:さらに30%減でも4億1,248万円
④参加者の偏りの影響
- 健康意識の高い人だけが参加した場合の効果
- 継続しない人が多い場合の効果
- 高齢になって参加した場合の効果
⑤外部要因の影響
- 他の健康施策との重複効果
- 社会情勢の変化(コロナ等)
- 制度改正の影響
判定方法: 最も悪い条件が重なっても、年間3億円以上の削減効果があれば事業継続の価値ありと判定。
※用語解説
※1 ロジスティック回帰分析:「なる・ならない」の確率を予測する統計手法
※2 生存時間解析:「いつまで元気でいられるか」を分析する手法
※3 傾向スコアマッチング:条件の似た人同士をペアにして比較する手法
※4 機械学習:コンピューターが大量データから規則性を見つける技術
※5 95%信頼区間:「95%の確率でこの範囲に真の値がある」という幅
他の自治体の分析との違い
よくある分析(レベル低)
- 「参加者の満足度が高い」
- 「参加前後で数値が改善」
- 統計的な検証なし
脳活ラボの分析(レベル高)
- 参加しない人との比較
- 統計的な検証あり
- 偏った結果にならないよう対策
- 学術論文として発表できるレベル
分析レベルの参考: CONSORT声明 http://www.consort-statement.org/ (臨床研究報告の国際基準)
期待される成果
短期的(1-2年)
- 予算獲得の根拠資料
- 議会での説明材料
- 住民への説明資料
中長期的(3-5年)
- 他自治体への展開モデル
- 国の政策への提言
- 学術的な貢献
政策活用の参考: 内閣府 エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/ebpm.html
まとめ
脳活ラボの効果を科学的に証明して、具体的な金額で示すことで:
- 予算の正当性を証明できる
- 他の自治体にも紹介できる
- 住民に分かりやすく説明できる
- 継続的な改善の根拠にできる
この分析により、「なんとなく良さそう」から「科学的に効果が証明された事業」にレベルアップできます。