05.既存分析事例の統計的厳密性比較分析
概要
既存の介護予防・健康増進事業の効果分析事例を調査し、統計的厳密性の観点から脳活ラボ分析計画と比較検討する。
大東市総合事業分析の統計的レベル
分析手法の現状
使用されている手法:
- 前後比較デザイン: 総合事業導入前後の比較
- 記述統計: 平均値、率の単純比較
- トレンド分析: 経年変化の傾向把握
参考資料: 大東市総合事業分析 https://www.jt-tsushin.jp/articles/research/sogojigyo-daitoshi-ousaka_01
具体的な分析内容:
分析期間: 平成27年度導入前3年 vs 導入後3年主要指標: 介護給付費の削減額結果: 3年間累計で約8億円減額比較基準: 「平成27年度までの3年間の平均伸び率」統計的厳密性の評価
優れている点
-
定量的な効果測定
- 具体的な削減額を算出
- 複数年のデータを活用
- 行政データの網羅的利用
-
実装可能なアプローチ
- 既存データの活用
- 継続的なモニタリング体制
統計的な限界
flowchart TD
A[大東市分析の限界] --> B[因果関係の証明不足]
A --> C[統計的検定の不実施]
A --> D[交絡要因の未考慮]
A --> E[選択バイアスの未対策]
B --> B1[前後比較のみ]
B --> B2[対照群なし]
C --> C1[有意性検定なし]
C --> C2[信頼区間なし]
D --> D1[高齢化の影響]
D --> D2[他の政策効果]
D --> D3[社会経済状況変化]
E --> E1[参加者特性の偏り]
E --> E2[健康意識バイアス]
具体的な問題点
1. 因果推論の弱さ
問題: 「総合事業の効果」と断定できない理由:- 対照群が存在しない- 同時期の他の要因(制度改正、社会情勢)を排除できない- 自然な高齢化進行の影響を分離できない2. 統計的検定の不在
問題: 観察された差が偶然によるものか判断できない理由:- p値の算出なし- 信頼区間の提示なし- 効果量の統計的評価なし3. 選択バイアスの未対策
問題: 参加者の特性が結果に影響している可能性理由:- 参加者の健康意識・経済状況等の偏り- 地域特性による参加率の違い- 継続参加者の特性偏向他の類似分析事例
一般的な健康施策評価の統計レベル
レベル1: 記述統計のみ
- 参加者数の報告
- 満足度調査結果
- 事前事後の平均値比較
レベル2: 簡易な推測統計
- t検定による前後比較
- カイ二乗検定による群間比較
- 相関分析
レベル3: 多変量解析
- 重回帰分析
- ロジスティック回帰分析
- 時系列分析
レベル4: 因果推論手法
- 傾向スコアマッチング
- 差の差分析
- 操作変数法
- ランダム化比較試験
現状の分布
flowchart LR
A[自治体の分析レベル] --> B[70%: レベル1]
A --> C[20%: レベル2]
A --> D[8%: レベル3]
A --> E[2%: レベル4]
B --> B1[記述統計のみ]
C --> C1[簡易な検定]
D --> D1[多変量解析]
E --> E1[因果推論]
脳活ラボ分析計画との比較
統計的厳密性の向上ポイント
| 項目 | 既存分析 | 脳活ラボ計画 | 向上レベル |
|---|---|---|---|
| 研究デザイン | 前後比較 | 準実験デザイン | ★★★★ |
| 対照群設定 | なし | 傾向スコアマッチング | ★★★★★ |
| 統計検定 | なし | 多重検定調整済み | ★★★★★ |
| 因果推論 | 弱い | 複数手法併用 | ★★★★★ |
| バイアス対策 | なし | 体系的対策 | ★★★★★ |
| 効果量推定 | 点推定のみ | 信頼区間付き | ★★★★ |
| 頑健性検証 | なし | 感度分析実施 | ★★★★ |
学術的貢献度の違い
既存分析:
- 行政報告書レベル
- 政策参考資料
- 学術的検証不足
脳活ラボ計画:
- 査読論文投稿可能レベル
- 学会発表基準クリア
- 国際的比較可能
政策説得力の向上
既存分析の限界:
「効果があった」→「本当にアプリの効果?」「8億円削減」→「統計的に有意?」「参加者に良い結果」→「選択バイアスでは?」脳活ラボ計画の強み:
「統計的に有意な効果を確認」→ 科学的根拠「95%信頼区間での推定」→ 不確実性の明示「複数手法で一貫した結果」→ 頑健性の証明推奨改善点
既存分析の改善案
段階的アプローチ:
- 即座に可能: 統計検定の追加
- 6ヶ月で可能: 対照群設定
- 1年で可能: 多変量解析導入
- 2年で可能: 因果推論手法適用
脳活ラボでの実装優先度
Phase 1(必須):
- 傾向スコアマッチング
- 多変量回帰分析
- 信頼区間推定
Phase 2(推奨):
- 差の差分析
- 操作変数法
- 感度分析
Phase 3(理想):
- ベイズ分析
- 機械学習手法
- 構造方程式モデル
結論
既存の健康施策分析は記述統計レベルが主流で、統計的厳密性に課題がある。脳活ラボ分析計画は因果推論レベルの手法を体系的に組み込むことで、学術的・政策的説得力を大幅に向上させる可能性がある。
期待される差別化効果
- 科学的信頼性: 査読論文レベルの統計的厳密性
- 政策説得力: エビデンスに基づく予算獲得
- 横展開可能性: 他自治体への応用モデル提供
- 学術貢献: デジタルヘルス分野への知見蓄積